アルフォンス・ミュシャは、フランス・アール・ヌーヴォー美学の形成に決定的役割を演じた人物と評価され、自然界にあるものを巧みに抽象化・様式化して曲線と直線が織り成す装飾的フォルムを作り出した。
エレガントで流麗なデザイン、洗練された細部の仕上がりと美しさの完璧なバランスは、一般大衆の心と想像力を捉えた。
1860年 | 7月24日、オーストリア帝国下の南モラヴィア地方(現チェコ共和国)のイヴァンチッツェで誕生。本名は、アルフォンス・マリア・ムハ(Alfons Maria Mucha) |
1871~77年 | モラヴィアの中心地ブルノで聖歌隊に入隊。ブルノで中等教育を受ける。 |
1877~79年 | 高校を退学。故郷に帰り、法廷の書記の仕事を手伝う。プラハの美術アカデミーに入学を希望するが不許可。 |
1879~81年 | ウィーンの舞台美術工房に職を得る。昼は工房で働き、夜間にはデッサンの腕を磨いた。 |
1881~82年 | 工房の大顧客だった劇場の火事によって解雇。ウィーンを離れモラヴィアのミクラフに落ち着く。 |
1884~85年 | ミクロフで出会ったクーエン伯爵の援助でミュンヘンに留学。ミュンヘン美術院に入学。 |
1887~89年 | パリに留学。パリの名門美術学校アカデミー・ジュリアンに入学。 |
1889年 | アカデミー・コラロッシに移る。伯爵の援助が突然打ち切られる。 |
1890~94年 | パリで挿絵画家としての活動を始め、挿絵画家としての評価を高める。 |
1894年 | 12月26日、友人の手助けで訪れたルメルシエ版画工房で、休暇中の工房画家の代理で大女優サラ・ベルナール主演「ジスモンダ」のポスターの原案制作を依頼される。 |
1895年 | 1月1日、「ジスモンダ」のポスターがパリの街に貼り出され、センセーションを巻き起こす。ポスターの盗難が相次ぐ。喜んだサラ・ベルナールはミュシャと6年間の契約を結んだ。 |
1896~97年 | 最初の装飾パネル〈四季〉を制作。ミュシャの個展が立て続けに開催された。 |
1900年 | サラ・ベルナールとの契約終了。パリ万博のボスニア・ヘルツェゴビナ館の装飾で銀賞。フーケ宝飾店のデザインを始める。 |
1901年 | レジオン・ドヌール勲章を授章。 |
1904年 | アメリカに招かれ大歓迎を受ける。ニューヨークの新聞がミュシャ特集号を出す。 |
1905年 | 「装飾人物集」刊行。 |
1906年 | マルシュカ・ヒティロヴァとプラハで結婚。妻と共にアメリカに出発。ニューヨークの美術学校の教授に任命される。 |
1908年 | ボストン交響楽団のスメタナの連作交響詩「わが祖国」を聴き、「スラヴ叙事詩」への思いを強くする。 |
1909年 | 娘ヤロスラヴァがニューヨークで生まれる。富豪のチャールズ・クレインが「スラヴ叙事詩」の計画の援助に同意。 |
1910~12年 | 西ボヘミアのズビロフ城の一部をアトリエとして借り、「スラヴ叙事詩」の制作を始める。「スラヴ叙事詩」の最初の3点が完成。 |
1915年 | 息子ジリが生まれる。 |
1918~19年 | 新たに誕生したチェコスロヴァキア共和国の国章、郵便切手、紙幣をデザインする。 |
1919年 | 「スラヴ叙事詩」11点をプラハで展示。 |
1920~21年 | 「スラヴ叙事詩」5点をニューヨークとシカゴ美術館で展示し成功を収める。 |
1926~28年 | 「スラヴ叙事詩」全20点が完成する。プラハにある産業博覧会の新会館で展示する。 |
1931年 | プラハ、聖ヴィート大聖堂大司教礼拝堂のステンドグラスのデザインをする。 |
1939年 | ナチス・ドイツによってチェコ=スロヴァキア共和国は解体。ドイツ軍がプラハに入城。ドイツ軍に尋問を受ける。釈放されたものの体調を崩し、肺炎にて7月14日、プラハで死去。享年78歳 。プラハのヴィシェフラット墓地のスラヴィーン廟に安置される。 |
19世紀末パリ、街角を飾った数多くのポスターを手がけ、アール・ヌーヴォーの旗手として人々を魅了したアルフォンス・ミュシャ。彼は、その後の作家たちに多大な影響を与え、アートコレクションハウス取扱い作家の中でも幅広い年代のファンから愛され続けています。
このたびアートコレクションハウスが版元となり、ここ日本の地で新たなミュシャ作品のシリーズを制作することが決定しました。タッグを組むのは、アートコレクションハウスと同様、設立30周年を迎える日本の版画工房エディション・ワークス。その代表を務めるアートディレクター加山氏と熟練プリンター(刷り師)四宮氏が、正確で繊細な技・丁寧な仕事を誇る日本の職人技術と最先端のコンピュータ技術を駆使。日本の研ぎすまされた感覚から生まれる作品を制作するのです。
このコレクションの制作にあたり、加山氏が導き出したのが「現存の作品ほど日焼けもせず、色も飛んでいなかったであろう、少し前の時代に時間を巻き戻してみる」という試みです。ミュシャの世界観に何か現代的なものを加えるのではなく、色褪せた部分を巻き戻すという感覚。「19世紀末から経過した年月を3分の2ほど巻き戻すことで、古色を残しながら軽やかな色彩へ"仕上げていく」というのです。
そしてリトグラフにする作品は全5作品。色分解には、1作品につき200時間以上の時間がかかります。そこからチェックのための校正刷りを行い、1枚1枚手刷りしていきます。日本のプリンターならではの繊細な技術により、日本人好みの新たなミュシャ作品が生まれるのです。
色分解
コンピュータを使って色ごとの版データを作成。版数にもよるが、1作品の色分解にかかる時間は、200時間以上。方法は工房によりそれぞれ異なり、どのようなパーツに切り分け、どういった色に分版するのかは、プリンターの感覚と腕にかかってくる。シミュレーションの方法・詳細は企業秘密。
製版
ミュシャの時代のリトグラフはジンク(亜鉛)板が主流だったが、現代ではアルミ板が一般的。コンピュータで作成したデータをもとに製版する。版から直接紙にプリントするので、絵柄は反転。「羽根」は25版使用。実際に表現される色は版数の3倍以上。
プレス機に版をセット
第1版目を上向きにセット、スポンジで保護コーティング剤を取り除く。乾燥は大敵、版には水分が必要で、薄く残るコーティング剤が保水の役割を果たす。
インク作り
予めコンピュータで色分解した時にシミュレーションした色指定表やプリントアウトした絵柄を参考にインクを調合。色を見極める能力、色の再現力など、技術や経験とともにセンスも必要。
インクをローラーにつける
版にインクを乗せるためのローラーにインクをつける。何度も転がしたりひっくり返したりしたながら、ムラが無いよう均一にインクをのばす。
版にインクをのせる
水を含ませたスポンジで版の状態を整え、ローラーを転がすと、版上の絵柄の部分にだけインクがのる。これはインクが油性で、絵柄の部分以外は油を弾く水の性質にしてあるため。
さらにインクを盛る
版に充分にインクをのせるために、何度もローラーを転がす。ローラーから版にインクが移った部分がムラにならないよう、インクをローラーに付け直しては慣らすという作業を何度も繰り返す。ローラーは軽いものでも3~4kg、重いものでは15kg程度に及ぶものもあり、かなりの重労働。
インクの状態を確認
インクののり具合は、目視での確認はもちろん、ローラーを転がした時の音の違いでも確認する。手刷りでは、インクを厚く盛る事ができるのが大きな特徴で、ミュシャのようなはっきりした輪郭線や色合いの作品には最適。
用紙をセット
今回使用しているイギリス製の中性コットン紙を版の上に乗せる。
プレス
スイッチを入れると、版が置いてある台が圧力をかけられながら奥へとスライド。上に乗せた紙にインクを転写する。
色チェック
版にインクを乗せるためのローラーにインクをつける。何度も転がしたりひっくり返したりしたながら、ムラが無いよう均一にインクをのばす。
一版目終了
色が決まったら必要な枚数を刷る。刷り終わったら、インクを落として版を洗浄。さらに版を保護するコーティング剤を塗布して次の版へと移行。
第2版インク乗せ
小さなパーツしか無い版は、 小さなローラーを使用。
第2版用紙セット
第1版でプリントした用紙を第2版の上に乗せる。この際、4隅にプリントしてある印を付け見当合わせをする。刷り上がりは絵柄でも確認するが、絵柄のみの確認ではどうズレているかまで判断しにくい。それを、確かめるためにも見当用の印は大切。また、温度や湿度の状態によって紙が伸び縮みするので、加湿器の蒸気やドライヤーなどで調整する。
第2版刷り上がり
先に刷った1版に2版のインクが上のせされた状態。
第3版&雲母摺(パウダリング)
第3版を刷ったあと、インクが乾き切らないうちに、顔料を直接塗布する雲母摺(パウダリング)を施す。これは浮世絵で使われる技法で、ミュシャの時代、西洋ではまだ知られていない。インクでは不可能なキラキラ感を出す事ができる。
第3版刷り上がり
こうして3版から4版…と、色ごとに異なる作業を繰り返して行う。そうして校正刷りをロンドンのミュシャ財団へ送り、厳密なチェックにおいて承認がおりたら本刷りとなる。
作品名 | ゾディアック |
技法 | リトグラフ |
イメージサイズ | 54.0cm×39.8cm |
作品名 | モエ・エ・シャンドン:ドライ・アンペリアル |
技法 | リトグラフ |
イメージサイズ | 69.4cm×23.4cm |
作品名 | モエ・エ・シャンドン:ホワイトスター シャンパン |
技法 | リトグラフ |
イメージサイズ | 69.4cm×23.4cm |
作品名 | 桜草 |
技法 | リトグラフ |
イメージサイズ | 66.5cm×25.8cm |
作品名 | 羽根 |
技法 | リトグラフ |
イメージサイズ | 66.5cm×25.9cm |